はりきゅう日和 

東京 代々木の鍼灸院 SO:UN+DO ひらち鍼灸院の日々雑録

vol.31 東洋はり医学会 新春講座「手から手へ!伝えるなら手を作ろう」

「手から手へ!伝えるなら手を作ろう」と題された、長野仁先生と六然社主宰の寄金丈嗣先生による講座に出席しました。
「手から手へ」を提唱している東洋はり医学会から、鍼灸師ための手指トレーニング理論である「唯掌論」を提唱している長野先生と、そのよき理解者である寄金先生に依頼があって実現したこの講座、これは聞き逃せないと思いました。
というのは、私は東洋はり医学会で勉強された先生がたくさん在籍しておられる漢方鍼医会で勉強させていただいているのですが、実技の中で指導してくださる先生方が仰ることを理解できても、(もともとの身体能力の低さのせいでしょう)自分の指、手、身体が、それを再現できないと感じることが多かったからです。
それを「センスのなさ」と言ってしまったらどうする事もできませんが、トレーニングすれば開ける道があるのなら是非その方法を知りたいと思います。

講座は、予想通り(以上に?)熱気が漲ったもので、2時間ノンストップ&特盛り&つゆだくでございました(^_^;)。

内容を大雑把に説明します。
長野先生は前半「入江流・杉山流・杉山真伝流の境地」と題し、入江流から杉山真伝流に約300年間詠み継がれた道歌を手がかりに、その境地を体現するための刺手と押手の基本とトレーニング法を実際に自らジャケットを脱いでやってみせて下さいました。後半には「腹部打鍼法の臨床応用―六角九臓論による臓腑調整法―」と題し、臓腑を調整することの重要性を説かれました。
寄金先生は「伝統を伝えるということ」について、鍼灸界の暗部にも言及しつつ刺激的に話されました。

以下にキーワードを少し拾ってみます。
杉山和一は何故破門されたのか?
杉山真伝流は押手に強いこだわりがある。その理由は?
可能な限り身体能力を上げることが大事。

柔軟性 どれだけ柔らかいか?
運動性 どれだけ良く動くか?
協調性 どれだけ左右が連動していくか? 

鍼とは重いものだ!
手段のために目的を忘れては駄目。
頼りになるのは臨床で日々培った身体

などなど……

結論めいた表現は誤解を生じやすいので、あえて疑問型や抽象的な表現のところを抜粋してみました。

他にも臨床のヒント満載だったのですが、私の表現力では伝えきれない内容でしたので割愛します。

個人的には福島弘道先生のお話が印象深かったです。
私は福島弘道先生にお会いしたことがありません。それが本当に残念です。先生方から福島弘道先生のエピソードをお聞きするたび、一度お会いしてその声や大きな手のぬくもりに触れてみたかったと思います。

最後に会場から「手指のことばかり取り上げられたが、自分は鍼は身体で打つものと認識している。身体の大切さについてはどうお考えか?」と質問がありました。
これに対し、寄金先生が「もちろん身体は大事で、それが前提ではある。実際に身体作り講座もしているし。しかし鍼灸師に身体作りを要求するのは少しシビアと感じている」と回答されました。

このやりとりを聞いて感じたことがひとつ。
私の太極拳の先輩でもある友人は、押手の下面をぴたっと揃える際に「肩に詰まりがあるので上手くできない」と表現しました。
つまり身体能力がある程度ある人は手指のトレーニングをしても身体にフィードバック出来るのではないでしょうか?
手指のトレーニングをするといっても、本当に手指だけしか動かそうとしない人と身体の欠点も含め改善しようとする人に分かれるような気がします。
私も後者でありたいと思っているのですが、なかなか……

新春にふさわしくたくさんのお年玉(刺激と課題)をいただいて、終了後は余韻を楽しむ間もなく往診に向かったのでありました。