はりきゅう日和 

東京 代々木の鍼灸院 SO:UN+DO ひらち鍼灸院の日々雑録

 vol.40 東京漢方鍼医会 3月例会

午前:症例発表「脳脊髄液減少症の治療と一症例」 演者:平地

最近TVなどでも取り上げられ知られるところになった「脳脊髄液減少症」という疾患がある。
交通事故による鞭打ち損傷の後遺症や外傷後の不定愁訴などで、実は「脳脊髄液減少症」だったという潜在症例は一説には30万人とも言われている。

今回は、現代医学的サマリーを、当疾患の代表的な治療法であるブラッドパッチ療法の第一人者である日本医科大の喜多村孝幸先生の日本鍼灸師会での講演録をもとに作成し、当院における治療例を発表させていただいた。

今回の発表にあたり、インターネットなどでアップデートされた情報を拾ってみたが、この疾患に関する学会での治療ガイドラインはまだ作成されていないようだ。
この疾患は、国際医療福祉大学熱海病院脳神経外科・篠永正道教授が約4年前に提起した疾病概念であり、今回調べてみて多くのドクターの共通認識となるには至っていない印象を受けた。

遠方から来院された患者であったので継続的な治療が出来なかった症例だったが、「漢方医学的な病態把握の仕方が果たして適当であったか?」について各先生方より突っ込んだ質問していただき、さらに病理考察を深めることができた。
また「脳脊髄液の減少」ということに捉われ過ぎないで、全体の病症から病理考察をし、治療プランを立てるべきだという意見が出され、現代医学的な意味における「脳脊髄液」を古典的にはどう解釈すればよいかを今回考えてみたのだが、それはあまり意味のある行いではないというご指摘もいただいた。

幸いにして、4年近くの長きに渡り様々な症状で苦しんできたこの患者さんは、鍼灸治療で症状の軽減を見ることができ、幸運にも地元のご友人が鍼灸師をされているとのことで、現在そちらで継続治療をされている。

今後、鍼灸院で出会うケースが増えると予想される疾患であると思う。
継続して情報をアップデートし、治療法の再構築を繰り返していきたい。


午後:日々の臨床上での疑問、質問を各先生方へ
今回は日頃の臨床で悩んでいる症例や、疑問に思っていることをランダムに臨床経験豊かな先生方にザックバランに聞いてしまおうという時間を設けていただいた。
質問者の先生方の熱意が、回答される先生方の様々な引き出しを開けていく。
宇野先生は、ご自身が40歳を過ぎて発症された気管支喘息の起序と東洋医学的な病理を質問された。その他、子宮筋腫の肥大、反関の脈、双関の脈…などなどについて、次々と質問と回答の応酬が繰り返され、白熱しました。

実技  
主訴:肩関節の痛み、運動制限
モデル患者:後藤先生 治療:平地 進行:小野先生
現症:約2週間前から増悪した肩関節の痛み。
前方挙上で結節間溝付近に疼痛(+)、結帯動作で、後頚部から肩甲骨内上角へかけて疼痛(+)。
脈:総按 やや浮 弦  単按 左尺中:やや浮(他は忘れました…)
この脈を浮とみるか沈とみるかで意見が分かれた。脈は少し沈んだところで打っているのだが、勢いは沈もうというより、浮こうとしているとみて、「やや浮」ということに落ち着いたのだった。
治療穴 中封→復溜 陽谿 背部 督脈上、兪穴へ衛気の補法 局所へ接触鍼 
使用した鍼:アサヒディスポ銀鍼1寸2番
食欲:普通(とのことでした…)、尿・便、睡眠も特に問題なく、筋の問題で臓ではなく経病とみて、証は肝虚とし、腹・尺膚などから気血水では気の問題とみて、金穴を選択。
陽経は痛みの部位との合致もあるし、剛柔の経、経穴で合わせました。
結果、ほとんど痛みを感じずに、可動域も正常範囲まで回復。
臓に絡む問題がなかったこと、脈や腹部所見の合致、痛みの部位が剛柔経だったことなど、臨床ではあまり出会わないような、シンプルな例だったので、拍子抜けするほどスムーズに痛みがとれてくれました。
みんなで立てたプランニングはよかったものの、治療は私がさせていただいたのですが、取穴の位置や指の重さなどから、思うような変化がすぐ出せず、何度も加賀谷先生に修正していただきました。