はりきゅう日和 

東京 代々木の鍼灸院 SO:UN+DO ひらち鍼灸院の日々雑録

歯痛の患者さん ※追記しました

10数年前より時々出現していた左上下歯痛が1ヶ月ほど前に発熱した後より連日痛むようになった患者さん(40代、女性)、本日略治。

初診日10月31日。治療回数5回。

朝日新聞の記事を読み、三叉神経痛を疑い当院を受診*1
最近になってよく耳にする、気質的な原因の見つからない「口腔顔面痛」の一例かと思う。

口腔顔面痛を治す――どうしても治らない「歯・口・顔・あごの痛みや違和感」がわかる本 (健康ライブラリー)

口腔顔面痛を治す――どうしても治らない「歯・口・顔・あごの痛みや違和感」がわかる本 (健康ライブラリー)


病態の考察と治療の内容は、あとで整理してから追記しようと思う。



以下、追記。

初診時の状態

約1ヶ月前、発熱後より発症。
起床直後が特に痛い。夕方になると軽減。
発症時の痛みを10とすると初診時は8。
疼痛部位は左の上下歯のみ(左半分すべての歯が痛む)。上歯と下歯は同程度の痛み。顔面や歯茎は痛みなし。
歯の中心部から放射状に痛みが拡散する。
歯科医院にて歯髓と咬合については問題がないと診断されている。
市販の鎮痛剤などは服用していない。

所見&治療内容

左顔面の三叉神経領域に痛みはない。
顎関節のアライメントや左顔面部の筋緊張などに特記するほどの所見もなし。
三叉神経の他の支配領域に痛みが出ていないこと、触診しても違和感や痛みが誘発されないことなどから三叉神経痛だと仮定して治療プランを作ることは得るものが少ないと考えると患者さんには説明する。

初診の段階では、発熱をきっかけにして起きた「痛みの異常発火」ではないか?と想定。
無理やり東洋医学的なタームを使えば「陰の虚から生じた熱が陽明経に及んだもの」か。

「痛みの異常発火」に対しては左の胃経の井穴へ透熱灸を。
「陰の虚から生じた熱が陽明経に及んだもの」に対しては、第1診脾虚、第2〜5診腎虚で見立て、要穴へ接触鍼をする*2

骨盤が左へ回旋しているとか、右の胸鎖乳突筋が異様に緊張しているとか、それが歯痛とどう関わりがあるか言語化できなかったが、気になるそういうところは一緒に治療している。
なお、顔面には施術していない。

経過

第1診後 
鍼灸治療前までは夕方以降楽になっていたのに、夜も痛くなった。痛みの出方が放射状ではなく求心的な方向へ変化する。ペインスコア8→9。
鍼灸治療後、増悪したことから「もう一度治療して軽減しなかったら他の治療法(口腔顔面痛の専門外来受診など)も考慮に入れてみましょう」とお話しする。

第2診後
全体的に痛みが軽減。ペインスコアは第3診時治療前、上歯10→0、下歯10→5〜6。

第3診後
上歯は痛まなくなった。下歯は第4診時治療前10→1〜2(ふだんは4ぐらいという)。

第4診後
痛いこともあるが、痛いことを忘れることもある。上歯は痛まない。下歯は第5診時治療前10→1(ひどいときで3〜4)。

週に1回のペースで加療し計5回治療の後、上歯は無痛、下歯は発症時の3割程度に軽減したところで略治とした。


考察&反省

痛みがいったん出たらどのぐらい続くかを、もっと問診で確かめておけば三叉神経痛か否かの鑑別ができた。
三叉神経痛由来で歯のみに疼痛が出現する症例もあるのだということを初診の段階で知らなかった。
初診時、食欲がないことと、疼痛が慢性化していることから、脾の気血水の生成機能の失調と診たんだけれど、そうではなく、食欲は歯が痛いから低下していたのであって、脾そのものの働きは病因とはなっておらず、腎のラジエーター的な働きが失調して上へ、陽明経へ熱が及んだと考え治療して経過が好転した結果をみると、そうだったんだろうかと思う。


歯痛の原因はなんだったのだろうか?三叉神経痛だったのだろうか?

その痛みにこの処方―歯科医師のための口腔顔面痛ハンドブック

その痛みにこの処方―歯科医師のための口腔顔面痛ハンドブック

こちらの本を読んでみると、今回の問診内容から鑑別することは難しいと分かる。
鑑別に必要な事項を聞き落としているから。
しかし、持続的な痛みの状態(どれぐらいか聞いておけば鑑別できた)から推測すると、三叉神経痛の典型例では少なくともないのであろう。

脳の認知の問題は、経過をみても、略治後の患者さんの言葉「三叉神経痛ではないと分かって*3ほっとしたところがある。そのあと痛みがさらに軽減に向かったようにも思う。」からも、関係しているのだろう。

鍼灸治療でどうして改善したのだろうか?

中枢におけるオーダーミス(痛みの原因がないのにもかかわらず痛みを発するオーダーが出されている)だけではなかった可能性もあるが、その部分へアプローチすることが治癒へ向けての大きなトリガーになったと思う。


非歯原性歯痛については以前にこちらの本を歯科医の友人から借りて読んで鍼灸領域ではどう対応すべきか考えたことがあった。
http://d.hatena.ne.jp/harikyu-biyori/20070105/1167980589

歯医者が怖い。 歯の痛みは心の痛み? (平凡社新書)

歯医者が怖い。 歯の痛みは心の痛み? (平凡社新書)

読後より 約3年が経過して状況はだいぶ変わっている様子。
この機会に知識をブラッシュアップしておこう。

■ご参考までに
非歯原性歯痛(歯が原因ではない歯痛)※PDFファイルです
http://www.dental-diamond.co.jp/data/dd2005.pdf

*1:この患者さんは以前に坐骨神経痛で治療したことがある方なので、神経痛は鍼灸で治ると思われたのかもしれない。

*2:いわゆる本治法。この時は型どおりに69難でベタな経絡治療をした。

*3:もし三叉神経痛だとしたら今回の治療プランで軽快していくということは考えにくいと説明した。