はりきゅう日和 

東京 代々木の鍼灸院 SO:UN+DO ひらち鍼灸院の日々雑録

vol.27 東京漢方鍼医会 12月例会

午前 「気血津液と69難、75難」 小野夏美先生
11月の本部会、研修部においての講義を、東京地方会で再演していただくことになりました。
この講義には興味があり、後で録音テープを購入しようとしていたところだったので得してしまいました(^_^)v。
難経の中で治療法則について述べられている、最も有名なこの二つの難。
しかし、「虚すればその母を補い、実すればその子を瀉す…」、「東方実し、西方虚せば、南方を瀉し、北方を補う…」このくだりの言わんとしていることを、陰陽五行論五臓の生理、気血津液、難経の他の難、素問や霊枢と絡めて理解することが本当は必要なわけで、そこが理解できていれば治療(選経、選穴)は広がりを持っていくのだろうと思います。

以下にキーワードを拾ってみます。
「肝実とはどういう状態か?」
七十五難を考える上で、まずは肝実について病理を考えるところから始められました。臨床上で七十五難を活かす場面は、肝実の治療が中心となるからでしょう。
【各先生方の説をお聞きしての私なりの肝実の理解】
脾の虚(→血中の津液が不足)や、肺気の巡りが悪い(→血が停滞)、瘀血(打撲、交通事故、月経不順、流産等)などが原因で、血熱を生じ、その熱が色々なところに波及。
※池田政一先生の著作には胆経→肝経へ伝播するとある。ハイブリット難経には同じ厥陰の気を有する心包経→上焦へ熱が波及し下焦が冷える(厥陰病系)、もしくは肺気の内への収斂が不足し、肝の内の発生が激しくなる(外感熱病系)とある。
肝がしっかりしていれば、波及してきた熱をはね返せるのだが、肝が虚していると熱を受ける。熱というのは実である。←この辺は長谷川先生の説明。分かりやすかった!
図式するとこんな感じでしょうか。

血中の津液不足
血の停滞    → 血熱(肝実)→ 瘀血 
瘀血       


「瘀血とは?」
肝実には瘀血を主とするものがありますが、では瘀血とは何か?をまずは確認しておきましょうということで、漢方用語大辞典からの引用をたたき台に、各々先生方から意見が出されました。内容は省略します。


「実という言葉が指すもの」
長谷川先生より、素問の調経論の講義でも出ましたが、実という言葉が指し示すものをきちんと古典にあたって確認すべきではないかと意見が出されました。わざわざ「実」、「有余」、「盛」と言い換えているのには意味があり、ごっちゃにすべきではないと。「実」とは瀉すべき邪が入っている状態を指すとのことでした。


午後 「不眠症について」 高嶋正明先生
とにかく大充実のレジュメ(永久保存版です!)が用意され、圧倒されました。
人間には何故「眠り」が必要か、「眠り」の生理的メカニズム、「不眠症」の分類、古典からみた「不眠症」とその治療、症例…と「不眠」だけでなく「眠り」についても詳しく調べられ、聞いていて本当に勉強になりました。
あいまには、ギネスブックに載っている世界最長不眠記録などのトピックスも随所に飛び出して、高嶋先生の引き出しの多さに驚かされ、堅苦しくない楽しい発表でした。
ここで内容を要約するのは、ちと技量不足。割愛いたします(^_^;)。


実技 モデル患者 高嶋正明先生  治療 平地
主訴:寝不足による頭重感
その他の症状:下痢傾向、かすみ目、右頚肩の動作時痛
脈:やや浮、濇 左の関上:濇 左尺中:やや緊 右関上:硬い。微緩とはいえない。
治療:左太白、上巨虚、中脘(本治法後の脈状、足の水の停滞など改善していたものが後退してしまった。手技の拙さか。)に衛気の補法。下腿:右申脈やや下方の陥凹部、外飛陽に衛気の補法。背部:督脈上の虚を衛気、詰まりに営気の補法。

ハイブリット難経のP550に、春に体調を崩したときの治療として

肝虚でも自らの力で血を作り肝を治そうとする力が働いていれば、脾虚証の治療でも治る

との記述がありました。
続いて

金匱要略・臓腑経絡先後病脉症第一』に相当する法則を以て脾の土穴で調整することで治ることもある。難経の十四難の「肝の病はその中を緩める」とあるが如しです。

とありました。

今は春ではないですが、寝不足による肝血の不足としてみれば、今回の治療は「肝虚を脾虚の治療で治す」ということだったのかもしれないと思いました。

実技で生じた疑問点や失敗の経験を、復習して調べて解決しようといったスタイルが、体感したことだけにやる気も湧きますね!精進、精進です!